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奇跡の人
2000年3月 公開
当年取って38才、誰はばかることのない、
良い歳をした大人が「奇跡の人」などという、
あからさまなタイトルの映画を観て、感動のあまり思わず
泣いてしまうというのが、人生の面白いところである。
もちろん僕だ。
何気なく見始めたNHKの映画劇場で、
タイトルが出た時は少々がっかりしたが、
本編が始まったとたん、その映像に魅せられてしまい、
そのまま物語の中に引き込まれ、106分を見てしまった。
調べてみると1962年アメリカの作品で、
監督はアーサー・ペン、主演としてアニー・サリバンを
演じたのはアン・バンクロフト。
そう、物語の主人公はサリバン先生だったのだ。
ストーリーは主に彼女の生い立ちから、
彼女の抱える問題を中心に進む。弟との関係、
生きていく苦しみや、心に負った傷を正面から
描くシナリオは、厚く、重い。
アン・バンクロフトはこの映画で
アカデミー主演女優賞を獲っているが、
それも頷ける。なにが凄いのかというと、
熱演ではないところである。
熱演というのは、演技に熱が入るということで、
熱が入った演技は既に自然な演技ではないのである。
アン・バンクロフトは全く自然にサリバン先生の
苦しみと葛藤を演じてみせた。
まさに俳優とはこうあるべきだろうと思う。
しかし実は、この映画の真の凄さは、そこにあるのではない。
助演としてヘレン・ケラーを演じた、パティー・デュークの、
まさに神業とも言えるヘレン・ケラー振りである。
パティー・デューク(本名アンナ・マリー・デューク)は
1946年生まれだから、この映画の時には15才。
子役として既に名を成しており、後にはTVスターとして
数えきれないほど多くの番組に出たが、とにかく、
この映画での彼女の俳優としての完成度は群を抜いている。
スプーンを投げ皿を割り、悲鳴を上げて手探りで逃げ回り、
人形でサリバン先生を殴り倒すその有り様は、
とても芝居とは思えない。
世の中にこんな演技ができる子供がいるのか、と感嘆する。
まさに彼女こそ、奇跡の人である。
映画のラストシーン、あまりに有名な、
井戸の水を触って「ウォーター」と叫ぶお決まりの名場面、
そんなもんで泣けるわけがないと誰でも思うだろう。
僕だってそう思った。だが、泣けるのである。
お涙頂戴で泣けるのではない、嬉しくて泣けるのである。
盲目であるヘレンの心の暗闇に、物には名前が
あるのだという知恵の光が差し、猛烈な勢いで心が
成長を始めた喜びに、感激して泣いてしまうのだ。
また、それを、緻密きわまりないカメラと
ショットワークで捉えるアーサー・ペンの監督振りも凄まじい。
まさに全編計算づく。無駄を省き、こけおどしを廃し、
最短距離で理想の映画表現にたどり着こうとする
その意気込みは、改めて賞賛されてしかるべきだろうと思う。
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