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Library : 伝説の日々

伝説の日々

2000年3月 公開

僕が株式会社スクウェアの面接を受けに行ったのは、
1991年の初夏のことだったと記憶している。
当時、まだ赤坂のアルファベットセブンビルの
二階を占めるに過ぎなかった開発部から程近い建物に、
事務部の受付があった。
ファイナルファンタジー4が発売される前。
音楽チームには植松伸夫氏、伊藤賢治氏、赤尾実氏の
三人が在籍するのみで、業務拡張を見込んでの
人材募集に僕が応募したのだ。
とはいえ、それらの事情が分かってきたのは、
ずっと後になってからのこと。
元来がアーケード主体のゲーマーだった僕は、
スクウェアという会社がどのような業務を
しているのかも知らず、またリリースされたソフトも、
一本もプレイしたことがなかった。
入社して初めて、自分がスーパーファミコンのゲーム開発に
携わることを聞かされたのである。
珍しくスーツを着て、ネクタイまで締めて面接に
行った僕を迎えたのは、極めてラフな格好をした
植松氏と伊藤氏であった。
何を話したか今となっては定かではないが、
僕がデモテープとして提出した曲が、
アラン・ホールズワース風のものだったことから、
プログレの話題で盛り上がったことは覚えている。
最初の仕事はロマンシング・サガの効果音。
RPGというものは多くのBGMを必要とすると同時に、
多くの効果音を必要とする。
足音、剣を振る音、打撃音、魔法から、召喚獣まで、
ゲームを彩るあらゆる種類の音を、
ひとつひとつ作っていくのである。
当時は、専任のスタッフが居なかったため、
グラフィックの若手や、音楽好きの有志が集まって、
わいわいやりながら、格好良い音を競ったものである。
赤坂の開発部は、まだ全員が顔見知りで、
とてもアットホームな雰囲気の、居心地の良い環境であった。
僕が夜中デバッグをしている隣で、
ディレクターの河津氏が椅子を並べて仮眠をしていたのも、
懐かしく思い出される。
その後、全社が移転したのが恵比寿、ISビルである。
中心の部分に空き地が有り、茶室が設けられているという、
妙な形の建物だった。
最初は人も少なく、まるまる空いた階もあったため、
皆でモデルガンを持ち込んで、シューティングレンジに
した頃もあったのは内緒である。
さて、このビルで、音楽チームはわがままを言って、
各々、広い個室をもらった。
作りながら音楽を聴いてチェックするには、
他に迷惑を掛けないスペースが必要なためだ。
6帖ほどもあるかというその部屋は、
その後数年間、僕の住処となる。
比喩ではない、文字どおりそこに住み込んだのである。
アパートは借りていたが、戻るのはせいぜい
月に一回程度。それ以外はずっと会社に居続け、
食事は全て外食、風呂は駅前の銭湯、
洗濯物はコインランドリーという有り様で、
昼になると寝袋から出てそのままモニターの前で
データの整理をする毎日だった。
作曲に使うのはシーケンスソフトだが、
そのデータのままではサイズが大きすぎてゲームのロムに
載せられない。あるいは余分な情報を省略し、
あるいはループコマンドを書き込み、少しでも小さいデータで
豊かな表現を生み出すことが、最大の目標となる。
そのとき使った資料もファイルもそのまま残っているが、
今見ても、よくこんな仕事をしたものだと思う。
こだわった音色に関しても同じこと。
出来合いの音源で曲を作り、後で辻褄を合わせていた
サウンドチームに、サンプラーというものを持ち込んだのは
僕である。自前のAKAI S-900が大活躍した。
いったん波形エディットを施し、スーパーファミコン上で
鳴る状態にしたものを、もう一度サンプラーに戻して、
それを音源として作曲したのである。
つまり、実際にゲーム機で鳴るはずの音を聴きながら、
曲を作れる環境を整えたわけだ。
音楽はメロディーだけではない。
演奏に使われる楽器や、エフェクトまで掌握して初めて
自分のスタイルと呼べるものを生み出すことができる。
我がままな言い分かも知れないが、
人任せにする部分が、少なければ少ない程よいのである。
気が遠くなるほどの手間と、細かい調整を経て、
聖剣伝説2の音楽は完成した。
もとより、前作の雰囲気を受け継ぐ気は微塵も無かったので、
全くがオリジナル、いかにも僕らしい実験的な
作品に組み上がった。
特にオープニングは出色。
その頃のゲーム制作の現場には、音楽と映像のシンクロ、
などと言っても、誰ひとり理解するものは居なかったが、
画像のプログラムが出来上がるまで粘り、
それに合わせて音楽を作曲し、さらに微調整を加えて、
画面に鳥が現れるタイミングと曲の展開を同期させるという、
前例のないこだわりを見せることが出来た。
昨今の派手な演出から見れば、
ただ絵が出るだけの地味なものだが、
シンプルな力強さといい、映像と音楽の一体感といい、
今もって、これに優るゲームのオープニングは
無いと自負している。
ところで、聖剣伝説2のBGMにはそれぞれ、
ちょっと変わった曲名が付いている。
例えば前出のオープニングは「天使の怖れ」。
(このサイトの名前でもあるのは御承知の通り)
実は、著名な文化人類学者であるグレゴリー・ベイトソンを
父にもつ、メアリー・キャサリン・ベイトソンが、
父の思い出に捧げて出版した研究書のタイトルである。
また「子午線の祀り」は、山本安英によって演じられた、
木下順二作の群読劇だし、「最後から二番目の真実」は
フィリップ・K・ディックの書いたSF小説である。
実は聖剣伝説2の全ての曲名は、なんらかの引用やもじりで
成り立っているのである。
そのまま付けたものもあれば、雰囲気だけもらったものもある。
それぞれ僕の心に印象を残した先達の作品群。
果たしてユーザー諸氏は、いくつお分かりだろうか。


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